あたし、スバル・ナカジマは人には言えない秘密がある。
 もちろん、戦闘機人であることは言うまでもないのだが、それ以外にも、とてもじゃないが人に言えない秘密
があるのだ。
 パートナーであるティアにさえ、バレてしまうまでは自分の口からは言わなかったくらいなのだから。
 そんな秘密がいま、あたしの目の前に危機として迫っている。この問題は非常に危険だ。なんとかしなければ
ならない。
 なぜならあたしは……。

-
--
---

 スバルの憧れの人、高町なのはの教導によって溢れるほどにかいた汗を心地よいシャワーで流し、火照った身
体を冷ますために下着姿のままでいたスバルは、自分以外誰もいなくなったシャワー室で、傍らに置かれた機械
へゆっくりと近づいていく。
 ごくりと生唾を飲み込み、スバルは意を決してその機械へ足を乗せる。機械の上部にある液晶は数字を目まぐ
るしく変化させながら、やがてある数字を示してその変動を停止させた。
「はぁ……」
 その機械――まぎれもなく体重計――がディスプレイに表示する数字は、平均的な女性のそれを大きく上回っ
た数を示していた。
 そう、彼女の身体は普通の人とは違う造りをしている。機械と生体が融合した戦闘機人。鋼の骨格と人工筋肉
によって生み出される、人間を超えた身体能力。
 分かっている。普通の人間とは違うのだから、あらゆる感覚も普通の人間を大きく上回っているし、筋力だっ
て見た目からは想像も出来ないほどの力を生み出す事が出来る。それに伴って、その力に耐えうるボディを作る
ためにどうしても堅く、そして重い素材を使ってしまうのである。
 その結果が目の前にある、現実という名の彼女自身の体重である。分かっている、分かっているのだが……。
「うーん、でもやっぱりあたしも人並みの体重で過ごしてみたいなぁ……」
 驚異的な身体の機構により、その一般女性からは逸脱した体重であっても問題なく日常生活は勿論のこと、こ
の機動六課に着任してからの日々の教導も問題なく……、大きな問題は無く過ごす事が出来ている。
 それでも、やはり思ってしまうのだ。
 今のこの現実から逃げれば、それはすなわち戦闘機人である自分自身からの逃避にもなり得る。それは彼女自
身のアンデンティティの喪失に繋がることになる。だからこそ、目の前のこの現実から逃げる事は敵わない。
 しかし、だ。そんな事は分かっているのだが、それでも彼女はふと先ほどのようなことを考えてしまうのだ。
 何故なら彼女はまだ15歳、まだまだ思春期の少女であり、これから輝き出す乙女なのだから。
 この頃辺りからだろうか。どうしても、何かにつけて体重に関係する話題に過敏に反応してしまうようになっ
たのは。
 一度気になりだすと止まらないのは人間誰しも経験があるのではないだろうか。現在のスバルはまさにその状
態であり、普段の会話の中でも、体重に関するワードが出るたびに反応してしまうようになってしまった。他人
よりも聴覚が優れているために余計に気になってしまうのである。
 スバルは頭を抱えて悩んだ。


 それからある日の事。
 この日はなのはの教導が休みであり、デスクワークを延々とこなす一日であった。優秀なティアナはともかく、
未だ慣れていないエリオとキャロ、そして苦手なスバルは余計に時間が掛かってしまう。
 そして更に仕事を遅くさせる原因がスバルにはあった。
 それはある意味では幸せな夢であった。
 夢に出てきたのは今の何気無い日常。教導官である上司のなのはの教導を受け、その他の仕事をこなし、休み
の日にはパートナーと街へ繰り出す夢。そんな何気無い、いつも通りというべき日常。そしてその夢の最後に現
れたのはやはりというべきか、体重計であった。
 その夢でも何気なく体重を計っている自分。夢に出てくるまで自分は体重を気にしているという事実に、スバ
ルは半ば衝撃を受けながらもその夢は続いていく。
 しかしこれは現実ではなくて夢。つまり、それは現実ではありえないことが起こる可能性がある訳で。
 体重計が示していた数値は、現実の、いつもの数値とは大きくかけ離れたものであった。
 なんとその体重計は一般女性に近い数値を示していたのである。
 それから驚きとその他様々な感情が渦巻いたまま目が覚めたスバルは朝練を終えた後、嬉々としてシャワー室
に向かい、汗を流した後に体重を量った。
 しかしそこに示された数値はいつもと変わらぬもの。夢とはいえ、変な希望を持った自分が悪いということは
分かっているのだが、一縷の希望を砕かれたのは余りにも大きい。これは今日一日はテンションはあまり上げら
れないのもしょうがない。
 そんな訳で、今日の彼女の仕事は遅かったのである。
 しかしそのまま遅いまま終わらないのでは社会人として失格だ。気持ちを切り替え、スバルは残りの仕事をこ
なしていく。
 もともとデスクワークが出来ない訳ではない。ただ作業が遅いだけなので、気合を入れ直せば直に終わるだろ
う。
 残りの項目を軽く確認し、一つ深呼吸をしてからスバルは再び作業に取り掛かるのだった。

 そしてそれから間もなく、デスクワークも終わり、大体の仕事が終わったところでスバルは荷物の運搬を頼ま
れた。そのうちのいくつかをはやての部隊長室へと運び込み、室内で作業をしていたはやてと少し話をしていた。
 しかしスバルはそこで異変に気がついた。
「あの……どうかしましたか?」
 普段は元気に胸を揉みに来るはやての様子がなんだかおかしい。椅子に座って部下の前でため息を隠すことな
く何度もしている。別にそういうのを気にする性分ではないが、何かあったのであればそれはやはり気になる。
 このまま下がるのも悪いと思い、スバルはつい、そう聞いてしまったのである。
 数分後に後悔する事になるとは知らずに。
「いやな、別に何でもないんやけど」
「でも八神部隊長、元気ありませんよ。何かあったんですか?」
「んー……。まぁそうやなぁ、別に仕事に関係ない事やし、めっちゃ個人的な事なんやけどな」
 そうしてはやてが繰り出した話題に、スバルは口を一瞬ではあるがつい口を引きつらせてしまった。
「まぁこの機動六課も稼動して数ヶ月、ようやく皆仕事がスムーズにこなせるようになって来てる。これはええ
事やし、部隊長としても安心できることやから、部隊運用に関しては特に問題はないんやけど……」
「他に何か問題が……?」
「こうやって部隊長してるとな、前と違って簡単に前線に出る事が出来ひんねんな。デスクワークばっかりで、
少しくらいやったら動く事はあるけど、車で移動して屋内を歩くだけやったりして、少なくとも去年よりかは格
段に運動量が減ってんねん」
 ここら辺りまで聞いた時点でスバルは嫌な予感が本能を刺激しているのを感じ取っていた。これは自分には良
くない話題であると、聞くのは間違いであったと。
 しかしここで今更逃げ出す事は出来ない。こうしてスバルは自分の首を自ら絞めに行っていたことにようやく
気づいたのである。
「大体予想できてると思うけどな、最近体重が増えてるような気がしてん。んで昨日量ってみたらちょっとショ
ックな数字やってん……。心なしかお腹周りにもお肉がついてきたような気するし。……私もなのはちゃんの教
導受けてシェイプアップとかした方がええんかなぁ」
 はぁ、と再びため息をついたはやてを、若干引きつった苦笑いで見ることしか出来なかった。
 愛想笑いも出来ない。今日のスバルにそんな余裕はないのである。唯でさえ朝から自分自身からの精神攻撃を
受けているのだから、それに関連する話題はNGにも程があった。
「ま、そやからこれはただの愚痴やな。…あー、部下に愚痴を言うって駄目な上司の典型やん。ごめんな、もう
戻ってええで」
 自己嫌悪に陥っているはやてに一礼し、スバルは部隊長室から退室する。
 ちなみにこの時、当たり前ではあるが自分以外にも体重で悩む人がいる事に、ちょっとだけ安心していたのは
スバルだけの秘密であった。

--

「よし……!」
 ダイエットしてみよう。
 スバルは心の中でそう決めた。確かに自分の体重が重いのは戦闘機人ゆえの体内の機械に因るところが大きい。
というかぶっちゃける事も無くそれが原因だ。さすがにその部分を減らす事は出来ない。軽量化なんてしようも
のならば、恐らく大掛かりな手術などが必要になるだろう。
 ならば他の部分を削ればいい訳で。それは勿論、生体部分であり、つまりは血や肉というべき部分である。
 ダイエットをするといえども、運動に関しては既に十分すぎるくらい動いているので問題ない。むしろこれ以
上動けば、いつあるか分からない実戦の際に思い通りに動けなくなる可能性がある。
 では他に何をすればいいだろうか。やはり真っ先に上がるのは食事だろう。スバルは自分は他の人と比べて、
少し多く食べている事は自覚している。元々良く食べる上になのはの教導があればそりゃあもうお腹もすごく減
ってしまって更に沢山食べてしまうというものだ。
 ならばここは削れる要素があるのではないだろうか。しかしここでも極端にやってしまっては仕事に支障が出
てしまう。腹が減ってはなんとやらとも聞くし、とスバルは頭の中で自分を正当化し、ほんの少し、ちょっとだ
け食事の量を減らす事にした。
「あとは……んー、何があるだろう」
 ダイエットの定番といえば、運動・食事・規則正しい生活あたりが一番よく言われていることであったとスバ
ルは頭の中で巡らせる。運動・食事は既に考えた後であり、残りは生活時間といったところか。しかしこれも大
きくは問題ない。朝は早朝訓練の為に早くに起き、夜は疲労の為に夜更かしする余裕もない。夜勤・当直にいた
っては新人であることと、前線部隊所属であることで免除されている。
 他には薬などを使ったダイエットもあるようだが、これは怪しすぎるので除外した。もし検査の際に引っかか
ってしまっては困るからだ。
 というわけで、スバルは食事を減らす事によるダイエットを実行する事にした。
 普段例えば10杯食べているものを9杯、8杯ほどに減らし、そうやってほんの少しではあるが食事量を減ら
していくのだ。勿論、減らしすぎるのは肉体的・精神的によくないので減らす量は程々にしている。
 食事の量が普段よりも減っている事に気づいたティアナがそのことを指摘してくるが、なんとかのらりくらり
と回避する事に成功した。一瞬スバルは冷や汗をかいたが、それよりもティアナがそんな細かい部分まで自分を
気に掛けていたことを嬉しく思い、にへらとしていたのだった。勿論、いきなり顔がゆるんだので引かれたのは
言うまでも無いのだが……。


 それから数日が経ったある日の事。
 午後の教練が終わり、他の隊員よりも一足早めに上がり、そのまま六課隊員寮内のバスルームへと足を運ぶ。
キャロとティアナとの三人で湯船に浸かり、今日の訓練についてを話したり、いつものように何気ない世間話で
盛り上がる。
 のぼせない程度に温まった後に湯船から上がり、三人は脱衣所へと戻っていく。身体を拭きながら笑顔で談笑
している姿からは、とても恐ろしい訓練量をこなす優秀な局員には見えず、どこにでもいるような、ただの少女
たちにしか見えない。
「……? どうしたのよ?」
 そんな中でスバルの様子がおかしいことに気づいたティアナが、彼女へと話しかける。当のスバルは脱衣所の
一点をちらちらと気にするように、しかしそれを悟られないようにさり気なくそれを行っているようにも見える。
 そんな不審な行動を見かけたティアナはその行動を行っている当の本人へと話しかけたのだが、
「な、なんでもないよー」
 スバルは一瞬ビクリと震えた後に、笑顔で何でも無いかのように答える。……怪しい。ティアナは自身のパー
トナーが何かを隠していることにぼんやりとではあるが気づいた。しかしここで食い下がっても恐らくは答えて
くれないだろう。そう感じたティアナは追求をやめ、再びドライヤーで髪を乾かし始めた。
 スバルはそれを見てほっと一安心する。少し露骨に動きすぎたかな、と反省し、これからは出来るだけ悟られ
ないようにしようと決めたのだった。
 ちなみにスバルの視線の先にあったのは……やはり、体重計であった。

 風呂から上がりさっぱりしたところで、先に上がって待っていたエリオと合流し、4人で食堂へと向かい晩御
飯を食べ始める。フォワード四人組のうち、約二名が恐ろしいほどよく食べるので、机の傍には食べ終わった皿
が山のように積まれているが、これも彼女らにとってはいつもの事。
 そんないつもの光景のはずの中で、やはりティアナは自分のパートナーの様子が普段とは異なることに気づい
ていた。
 パッと見ただけでは特に大きく変わって点は見当たらない。食べる量自体もそんなに普段と変わらないように
思える。数日前に指摘した時と同じく、以前よりも減った気がするのは確かだが、今日はそれに加えて更に不審
な行動が見られた。
 普段ならば、まだ食べれるのならば遠慮なくお替わりを食べていたのにも関わらず、控えめなのである。そし
てまだ食べるか、それとももうここで止めるか……。いつもとは違う、そんなパートナーの行動に違和感を覚え
た。外見だけではあまりそうは見えないが、目線と微妙に落ち着いていないその雰囲気がティアナの目について
しまったのである。
 気にはなったのだが、以前聞いた時にははぐらかされたこともあって、ティアナはその場での追求を諦めるこ
とにした。
 他の二人……年少組は恐らく気づいていないのだろう。二人とも普段と何も変わらずにスバルやあたしと接し
ている。……まぁ今のスバルが普通じゃないのに気づけるのはあたしくらいだけだと思うけど。
 そんな事を考えながら、ティアナは残りのご飯をかきこむのであった。
 そして食堂での出来事やその他ここ最近の違和感についてスバルから聞き出すために、部屋へと戻ったティア
ナは椅子に座り、口を開いた。
「あんた、最近おかしいわよ。ご飯だっていつもに比べると少ないし、時々別のこと考えてるようにも見える
し」
 ベッドの上でくつろいでいるスバルへと向き直り、スバルの顔を見る。聞かれた当の相手はきょとんとした表
情を一瞬見せたあとに、まるであちゃー、といわんばかりの表情へと変わった。
「やっぱり何か隠してたのね。何隠してるのよ、ほら正直に言っちゃいなさい」
「うーん、やっぱり……バレちゃってた?」
 当たり前じゃないの。
 ティアナはつんとした声で言い切った。一体何年一緒に居ると思っているのか。日常のほんの何気無い癖でさ
え気づくほどだ。そんな彼女が、ここ最近のこれほどのパートナーの不審な行動に違和感を覚えないはずがない。
 スバルはまだ何とか逃げれないか、逃げ道を探しているようだったがやがて観念し、ティアナへと顔を向けた。
「……実はね、ダイエット、してた」
 恥ずかしさからかそれとも別の何かか、小さな声でスバルはそう言ったのだった。
 それを聞いて今度はティアナがきょとんとした表情へと変わった。
 え、ダイエット? ダイエットって、あの体重を減らして身体を痩せるようにする……。そんな事をぶつぶつ
とスバルに聞こえないほど小さな声で口の中で呟く。やがて納得がいったのか、スバルの方へと顔を上げ、口を
開いた。
「最近様子がおかしいと思ったら……そういうことだったのね」
 ティアナはため息をつきながら、ベッドの上で枕を抱えるスバルを見る。
「うぅ……」
 ティアナに見られているスバルはバレた恥ずかしさからか、更に顔を枕にうずめて、ティアナの顔を見ないよ
うにしている。まるで悪いことをして見つかってしまった子どもと、その事を知った親のようだとティアナは一
瞬思った。
 とはいえどもスバルは何ら悪い事はしていないし、このような事を隠していたことに関してもティアナには咎
めるつもりは一切無いのだが。
 それよりも、どうしてそのような事をしていたのかがティアナは気になった。思い起こしても、少なくとも自
分の知っている範囲では自分はダイエットをさせるような事は言ってないし、他の人にも言われていないはずだ。
 だからこそ分からないのだ。どうしてこのような事をしているのかが。ある程度慣れ、余裕が出てきたとはい
え、そのような事をしていれば直に変調をきたすのはスバルだって分かっているはず。
 理由を問うてみると、スバルはしばらく考える仕草を見せたあと、おもむろに口を開いた。
「うーん、何ていえばいいのかな……」
 スバルは自分の中にあるものを言葉にするように、ゆっくりと、選ぶようにしながら口を開いた。
「やっぱり普通の女の子に、憧れみたいなのはあるかな」
 目を閉じて、何かを考えるかのようにじっと動かない。そしてやがてゆっくりと目を開き、困ったようにティ
アナへと笑いかけた。
 それを見てティアナは何を感じたのか、ため息をつきながら
「馬鹿ね、そんなの気にし出したらキリが無いじゃない」
「それはそうなんだけど……」
 スバルはうーん、と唸るように声を漏らしながら、やはり困ったような笑みを浮かべていた。
 彼女自身もこれが一時的なものであるのは自覚しているのだろう。もうしばらくもすればまたいつもの彼女に
戻るのは、本人もパートナーであるティアナも薄々は感じ取っている。
「大体、あたしだって平均と比べたら軽いってことは言えないわよ。筋肉だってずいぶん付いたし」
 と、ティアナは自分の腕をスバルに見せ付けるように揉みながらため息をつく。
 こんな事は言っても慰めにならないのはティアナ本人が分かっている。
 しかしそれでもこうやって悩むスバルを放っておく訳には行かない。彼女とは短い付き合いではないし、パー
トナーとしてこのまま放っておくのは間違っている。
 それに、パートナーであるティアナは分かるのだ。いくらきっかけがあったのだろうとはいえ、彼女の心の中
で何らかの変化があったに違いない。それが何であろうと、大きな問題は無いが、やはりパートナーとして、同
じ部隊員として、出来うるサポートはしなければならない。
 ……とは言うものの、一体どうすればいいのだろうか。
 短くない期間を共に過ごした二人ではあるが、スバルの身体のこと……戦闘機人に関する話題はあまり表立っ
て話す事は無かった。タブー視している訳ではないし、今更気にする事でもないのだが、それでもそのことにつ
いて話し合う事はめったにない。
 もっと話を聞いておけば、こんな事を考えさせる事も無かったのかなと少し思いながらも、ティアナは彼女に
かける言葉を考えた。
 そして悩んだ末、ティアナは言葉少なく、しかし正直な思いをそのまま口にすることにした。
「……上手くいえないけど、あんたはあんたのままでいいのよ」
 顔をうつむけながら、ティアナは小さな声で言う。心なしか、顔も赤くなっているようにも見える。
「えっと、その……。別に何でもないけど。あたしは今のままのあんたが、その……好きだから……」
 最後のほうはほとんど聞こえないくらいの小さな声であったが、知覚が優れているスバルはその声がしっかり
と聞こえていた。
 ティアナのその言葉に、特に表情を変えることなく聞いていたスバルだが、その言葉がしっかりと頭に染みこ
み、その意味を理解した時、にへらと顔をゆるませながら口を開いた。
「えへへ、ありがと、ティア」
「うっさい、変な心配かけんじゃないわよ」
 一方はデレて、もう一方は照れて。二人の間では時折、しかし何気なく起こりえる日常の1シーン。
 そんな二人だからこそ、ずっとその関係が続き、そして互いを信用することが出来ている。生涯を通じて付き
合っていけるそんなパートナーに出会えた事に、スバルは今再び心が満たされるような感覚を覚えた。
 その幸せをかみ締めながらスバルは床に就き、目を閉じてそして誰に祈る訳でも無く、口にする。
 願わくば、この幸せがずっと続きますようにと。

---
--
-

 あたし、スバル・ナカジマは人には言えない秘密がある。
 もちろん、戦闘機人であることは言うまでもないのだが、それ以外にも、とてもじゃないが人に言えない秘密
があるのだ。
 パートナーであるティアにさえ、バレてしまうまでは自分の口からは言わなかったくらいなのだから。
 それはあたしの体重が…重いこと。
 きっかけはなんてこと無い、日常の1シーン。恐らくあの時がきっかけだったのだろう。その時からあたしは
自分の体重をやけに気にするようになっていた。
 幸い強迫観念にとらわれる程気にする事はなかったのだけれども、それでもパートナーのティアには随分と心
配を掛けてしまった。
 だけどもう大丈夫。あたしはあたし、今のままが一番だと言ってくれたパートナーのお陰でもう気にする事は
無くなった。
 なぜならあたしは幸せだから!

 

  戻る