第一部隊隊長の朝は早い。 勿論目を覚ますのはFBSが始まる前である。朝は時間との戦いである。1分1秒も無駄には出来ない。 起床後はじめにするのは二度寝という名の瞑想。特に時間は設けていないので大体3〜10分ほどである。そし て瞑想が終わると共にベッドから抜け出しメールのチェック。基本的に日中はメールをチェックしないので、朝 のこの時以外はメールボックスを確認することは殆ど無い。 その後簡単に自身の身体の調子をセルフチェックし特に問題がないのを確認する。ゴッドイーターたるもの健 康には常に気をつけなければならない。 自室でのすべきことが終わり次第、外へでる。 時々徹夜しているソーマを見かけることがあるが今日は居ないようだ。ゴッドイーターたるもの、戦場で常に 全力を出さなければいけないのに、あいつは何をしているんだろうか。化け物とかいっても睡眠はいるだろうが ぁ! と面と向かって言いたいのだけども、ソーマは不機嫌になると怖いのでなかなか言い出せないのである。 くっそう、あいつのパパが生きてるうちに密告しとけばよかったと今更ながらに思う……。 そして朝の仕事で一番大切で重要な仕事が始まる。向かう先はいくつかある新人区画のひとつ。つい数ヶ月前 まで俺自身が居た区画だ。 エレベーターを降りてまっすぐ一番奥の部屋……ではなく、左側の部屋のロックを解除する。本来なら部屋の 中からでないとロックを解除することができないのだが、つい先日、ちょっとしたバグを発見してしまい、それ を実行するとあら不思議、この通りである。 心の中でお邪魔しますと呟いてアリサの部屋に入る。いつもなら静かに聞こえるドアの音が今だけはやけに大 きく感じる。 部屋の中はもちろん真っ暗である。日が昇り始めたとはいえ、まだまだ部屋の中を明るくするには早い。しか し我々神機使いはオラクル細胞の投与により、一般人よりも身体能力が飛躍的に上がっているのだ。この程度の 暗さなら難なく行動できる。すり足差し足抜き足忍び足。行動には最小の注意を払わなければならない。 そして朝の一番の大仕事だ。これがないと一日が始まる気がしない。 すやすやと眠るアリサの寝顔をチェック。あぁ、今日もアリサは可愛いな。本当にかわいい。もう勢い余って ウッとなってしまっても仕方のないくらいだ。マシ゛ヤハ゛。 いつまでもずっと見ていたいと思わせるほどの無垢な寝顔。天使の寝顔とはまさにこの寝顔のことを指すのだ ろう。アリサかわいすぎる天使か。 しかしいつまでも見ているわけにはいかない。こんな朝早くからアリサの寝顔を見に来ているのは 見つからないようにしている為であって、起きるまでここにいては本末転倒である。 だが仮にアリサに見つかっても問題はない。アリサは朝が弱いタイプなので、起きたばかりであれば夢との区 別がつかない。つまり、まだ完全に覚醒していない状態の間に逃げれば問題ないといえばないのだ。 というわけで、たとえバレてしまっても問題はない。いや、もちろん問題はあるしツバキさんやサカキ博士を はじめとしてさまざまな人にいろいろ言われてしまうことは目に見えている。 しかしそれでも「どん引きです……」の一言が聞けるのならば、それもまた一興。いや、むしろ聞きたい。ア リサー!俺だー!罵ってくれー!! というわけで、アリサを充分に堪能できたのでアリサが起きる前にまたすり足差し足ryで部屋を出ることに する。もちろん出る際に他の人にバレないよう細心の注意を払いながら、そしてロックを再びかけることを忘れ ずに、痕跡を残さず新人区画から去るのだ。正直、アラガミとの戦闘時よりも本気を出しているといっても嘘で はない。
次に向かう先は神機使いたちの憩いの場ともいえるエントランスだ。特に大きな用事はないが、いつもの流れ として行くことにしよう。 エントランスには勿論誰もいない、……と思ったのだがそうでもなかった。ベンチに先客を見つけてしまった。 座っていたのは医療班のレンだ。 アリサを眺めるという大切な仕事があった俺はともかくとして、こんな時間から何をしているんだ……。相変 わらず行動が読めない子だ。そして手には勿論あの殺人ドリンコである初恋ジュース。あいつの舌はもしかして オラクル細胞で構成されているのか。なんとも貪欲な……。 「あ、隊長さん。おはようございます。早いんですね」 それはこっちの台詞だ。声には出さないが思わず心の中で言ってしまう。 少なくとも、昨日俺が寝る直前に呼ばれたためにサカキ博士のところに行ったのだが、そのついでに病室に寄 った時は普通に仕事をしていたはずなんだが……。こいつは何時寝てるんだ。 とりあえず当たり障りのない挨拶を返して近くのベンチに腰掛ける。特に用事はなかったんだが、やっぱり人 がいると居辛い。 フェンリル極東支部――通称アナグラに先日配属された新型神機使い。今、このアナグラには目の前にいるレ ンを含めて、アネットやフェデリコ、アリサそして俺の計5人と、偶然には出来すぎている程の新型が配属され ている。アリサ・アネット・フェデリコの3人はそれぞれ別の支部から配属されたらしいが、どこから配属され たのかはよく覚えてない。とりあえず欧米あたりだったはずだ。詳しいことはどうでもいい。 「ようやく、アナグラでの生活が慣れてきた気がします。ここの皆さんは誰しもが個性的で、見ていてとっても 面白いです」 その個性的な面々にはもちろん当たり前のように俺も入るんだろうなぁと思いつつ、そうかとだけ返し、もう 一度あたりを見回す。 オペレーターのヒバリちゃんをはじめ、正体不明のよろず屋も、清掃のおばちゃんも今は姿がない。まぁむし ろ彼らがこんな時間にいればそれこそ驚きなのだが。 扉の向こうや地上に近い場所には夜間の警備隊がいたりもするのだが、ほぼ安全が確保されているこのエント ランスにはさすがに誰もいない。……ちょっと無用心な気もするが。 このアナグラという地下にこもっていると時間の感覚を忘れてしまいそうになるがそろそろ早起きの人は起き だしてもおかしくない時間だ。ゆっくりと出来る時間はそろそろ終わりに近づいてきている。 「さてと、僕はそろそろ失礼しますね。それではまた後ほど」 立ち上がり、去っていくのをひらひらと手を振りながら見送る。 そしてしばらくしてから次々と現れたアナグラの面々とともに一日の始まりを感じるのだ。俺一人の時間は終 わった。これからは第一部隊隊長としての時間だ。気持ちを切り替え、気を引き締めなければ。
朝の全体ミーティングも終わり、自室で一息ついているとアナウンスが流れてくる。 『廃寺院付近にて、ディアウス・ピターとプリティヴィ・マータの群れを確認。第一部隊は至急これの討伐にあ たってください』 ほらきた。さっそくお仕事だ。 こうやって、今日もこの「クソッタレな仕事」な仕事は続いていくのだ。