Welcome to the Lyrical Na#$%&a Online World! ボーっとしてたら死んだ。 別に死にたかった訳じゃない。ただいつも通りの生活を送っている中で、街中で少しボーっとしていたら死ん だ。 トラックが飛び込んできたのか、上から鉄骨が降ってきたのか、はたまた突然心臓が止まってしまったのかは 分からないが、気づけば自分は死んでいた。 まだ30年も生きてないはずなのに、短い人生だったと振り返る間もなく、こうして死んだ。 とりあえず死んでから初めて分かったことだが、どうやら死んでも意識は残っているらしい。今こうやって思 考が進んでいるのがまさにその証拠となろう。しかし、死んだのは分かるのだけれども何故自分がいまのような 状態になっているのかはさっぱり分からない。というかそもそもどういう状況かもあまり分かったものではない のだが。 考える事は出来る。自分という存在があることも理解できている。いまいち不鮮明な部分も多いけれど。しか し残念ながら、五感に関しては全く機能していない状態にある。 以前、アイソレーションタンクの中に入ってみた時のような感覚に似ているが、感じ取ろうとしても五感どこ ろか、身体の感覚そのものが感じられない。 なんといえばいいのだろうか、つまりは、身体が存在していないような感覚を今現在味わっている。実際一番 重要な視覚はさっぱり働かないから明るさや色さえ分からないし、触覚や筋肉の感覚も無いから身体があるのか 無いのかさえ分からない。 もしかしたら、今自分は脳みそだけで生きているのだろうか。そんな冗談じみた思考さえ生まれ始めてきてい た。 ふとどのくらいの時間が経っただろう。多分そんなに時間は経ってないだろうけど。 何かを考えているようで、実のところ何も考えていないような時間を過ごしていると、いきなり世界に色が付 き、世界が見えた。五感が戻ってきたような感覚を味わう間もなく驚いている中、目の前に突然人が現れた。 「ようこそ、リリカルなのはオンラインの世界へ!」 目の前の少女と思しき人間は、自分に向かって高らかと宣言するかのようにそう言い放った。 現状を理解する間もなく目の前の少女はにこにこと、こちらへと笑いかけながら自分の反応を待っているよう だった。 「は?」 死んでから初めて声を出した気がする。 これまでは声を出そうという考えすら出なかったのだから、当たり前といえば当たり前なのだけど。それがこ んな間抜けな一言なのだから、ちょっと情けない気がするけれども、いきなりなのだから、しょうがない。まぁ そもそも発声器官もさっきまでちゃんと使えてたかどうかすらも定かではないけど。 とりあえず、せっかく視覚が使えるようになったので、まずは目の前の少女を無視して辺りを見てみる。見え るようになって、色がついたにも関わらず、辺りは一面真っ白の世界。目がおかしくなったのかと思ったが、目 の前の少女は何の問題もなく見える。となると、やはりこの空間が真っ白な世界なのだろう。 この空間がどの程度の広さかも分からないし、上下左右も分からない。でも重力?のおかげか、地面に立って いるという感覚はある。ってあれ、地面をよく見たら自分の影も映ってないや。どういうことなんだろう。そし てここは一体どんな世界なんだろう。あ、死後の世界か。そう考えれば納得できるような気がする。 よくよく見ると、目の前の少女に隠れるようにして、少し後ろに青年らしき人が椅子のようなものに座ってい た。ほかに見渡しても誰もいない(というか何も無い)ので、目の前にいる二人がこの空間の主なのだろうか。 一体ここはどこですかと問おうとしたところで、少女が再び口を開いた。 「あなたはなんと、たった1000人しか選ばれない、このリリカルなのはオンラインのユーザーに選ばれました! おめでとう!」 満面の笑みを浮かべながらぱちぱちと拍手する目の前の少女。彼女の後ろにいる青年もやる気なさそうに拍手 する。 え、ちょっと意味が分からない。全体的に意味が分からない。何がなんだか分からない状態なんですけど。 「詳しいルールとか説明は実際に始めてもらってからとして、とりあえずは簡単な説明をするねー。ゲームの内 容は簡単、リリカルなのはの世界であなたがどれだけ、何が出来るか、がメインです。実際やってみればわかる よね。それじゃ、早速キャラクリエイトいってみようか!」 「ちょい、おいおい」 理解できない言葉を羅列され、まったく頭が追いつかなくて混乱しているところで、ようやく助け舟?が入っ た。 今までずっと会話に参加するつもりが無さそうだった青年が、自分を助けるつもりか、暴走気味の少女にスト ップをかけてくれた。 「いきなり飛ばしすぎ。とりあえずゼロからちゃんと説明始めろよ」 「あっ、こりゃ失敬! つい興奮しちゃってた☆」 この少女の元気さとハイテンション具合は一体どこから沸いて出ているのだろうかと、どうでもいいことを考 えれるくらいには余裕が戻ってきた頃にようやく、当の少女から分からない事だらけの自分に説明を始めてくれ た。 「えーと、まずあなたは死にました。これは分かってるよね。で、ここは死後の世界です。厳密にはちょっと違 うけど。本来なら死んだら流れ作業的に特定のあるところに行くのを、ちょちょいと細工して、ここにあなたを 飛ばしてきました」 あ、うん。分かるような分からないような。とりあえず段々と分かりにくくなってる説明だということは理解 できた。まだ説明が始まったところなのに……。 「あーそうそう! 申し遅れました! 私は神様です! 厳密には違うけど、そう言った方が分かりやすいから このままにしとくね。あ、名前は秘密です。でも別に神話とかに出てくるような名前と存在じゃないから安心し てね! ちなみに後ろの彼も神様です。二人そろってtoo gods!」 理解出来るはずなのにちょいちょい訳の分からない事を言うのを止めてくれないかな。 とにかく、少しは理解できた。 自分は死んでる。うん、これはもう最初から分かってた。で、自称神様の目の前の二人が、本来ならばちゃん とした死後の世界に飛ばされるはずの自分を、その権力か何かを使ってこの空間に呼び寄せた、と。大体こんな 感じか。うん、なんとか理解できてるはず。こういうのが理解できる辺り、生前ネットに毒されていた自分の知 識が悲しくなる。今はそれで救われてるからなんともいえないけど。 「うんうん、ちゃんと理解出来てるようだね。私にはちゃんと分かるよ。なんたって神様だし。っていうか分か る人をメインに選んでたんだし」 「えーと、続きを、お願いします」 どことなく、説明が終わってしまいそうな雰囲気をかもし出していたので、ちょっと促してみる。 まかせなさいとVサインをキメて、再び説明に入る自称神様の少女。 「ここにあなたを呼んだ理由ですが、それがさっき言ったリリカルなのはオンラインのユーザーに選ばれた、と いうものです。改めておめでとうございます! 犬死にか大悪党か英雄か、可能性はまさに無限大! ちなみに 拒否権はないので諦めてちゃんとプレイしてね!」 ……。 ん? えーと、どういうことだ? 自分、死ぬ→ストレート死者コースから外れる→訳の分からない空間で神様こんにちは→神様「オンゲーの ユーザーに選ばれました是非遊んでね! ちなみに拒否権ねーから!」 ……え、意味分かんないんですけど。特に後半。っていうかリリカル以下略ってネトゲ出してたのか。 何で死んだのにオンラインゲームなんてやらされるのか、ちょっと訳がわかんないです。 「あ、そうそう」 理解不能なこの説明に頭を抱えていると、その状況で察しくれたのか、後ろの青年が説明を加えてくれた。 が、それは余計に頭をこんがらがせてくれるものであった。 「こいつが言い忘れてたけど、オンラインって言っても、別にパソコンとかでオンラインゲームするわけじゃな いから」 はい訳ワカメー! なんだよこの自称神様の二人は! 理解不能なことを言って楽しむだけの愉快犯か! まさかこれは全て巧妙に仕込まれたドッキリだったという のか! とまぁそんな被害妄想さえも沸いて出てくるほどにはさっぱり分からないままである。 「リリカルなのはオンラインってのは、飽く迄も俺ら……というかこいつがつけた便宜上の名称。正確には、リ リカルなシリーズの世界そのものをまんまトレースした世界に、あんたが、厳密にはあんたの魂が入り込んでも らう」 「この箱庭を作るためにどれだけの労力を使ったことか……でも楽しいから問題ないけどー!」 「はぁ……」 えっと? つまり? あれですか。もしかして、アレ系のパターン入っちゃうのですか。ありえるはずの無い、明日はわが身が起こ っちゃいましたか。 「まぁ分かりやすくぶっちゃけて言えば、ほぼリリカルなのはの世界に転生しちゃってね、ってお話です」 ……。……うん。 途中から大体理解はしてたけど、そういうことなのね。しかも神様転生パターン。面白みの無い方が来ちゃっ たよ。洒落にならない。 しかし、この目の前の神様(?)が"創った"リリカルなのはの世界に転生って、なんか怖いな。同じように見 えて、実は違う箇所がいくつかあったり。 「で、辞退することは?」 「当然の如く出来ません。さっきも言ったとおり、拒否権はないので諦めてちゃんとプレイしてね!」 マジかよ。とんだクソゲーだな。 「ちなみになんでリリカルなのはオンラインって名前なのか知りたいですか?」 少女の神様が目をきらきらさせながら聞いてくる。もちろん全く興味はないけれど、どうせそう答えても言っ てくるのだろうというのは簡単に予想できる。なので適当に頷いてここは大人しく聞いてみることにした。 「オンラインゲームってのはそもそもオフゲーと違っていろんな人と触れ合うことが出来るゲームですね。NPC とは違う、生きている生の他人との触れ合いこそが、オンラインゲームの醍醐味だと思うわけです。というわけ でこの概念を、私の箱庭こと、リリカルなのはの世界にも導入してみることにしたのです」 して、その心は? ……まぁ既に嫌な予感はしている。大抵、当たってしまう方の嫌な予感が。 「つまりは、ここから転生するのはあなただけじゃありません。他にもたくさんの人が、こうした経緯で私のつ くったリリカルなのはの世界に転生していってます」 うん。予想通りだね。いわゆる複数転生者系のパターンですね。出来の悪い物語のテンプレートを自分の置か れている状況に当てはめるってのはなんとも気持ち悪くて、複雑な気分になってしまう。 これだけいろいろ話してもらってるけれど、あまりにも現実離れしていて実感が沸かないというのが原因の一 つかもしれない。 そもそも、自分が死んだってのは理解できるけど、さっぱりそれについて納得は出来ていないし。ほんとに死 んだの? もしかして知らないところで開発されている訳の分からない意識を操る装置で遊ばれているとかそん なパターンもあるかもしれない。どっちもありえそうな話じゃなくて非現実的だけど。 「あなたを含めた多くの転生者達が、私の作ったリリカルなのはの世界を舞台にした箱庭の中で、その新たな生 を全うする訳です。まぁ簡単に考えるとヴァーチャルリアリティMMORPGだと思ってプレイしてくれればいいです ね。ただし全ての感覚や法則が現実基準のデスゲーム版ですが」 とんでもねーことをのたまう自称神様。本当にろくでもない! 「あ、心配しなくても、基本的なことに関してはいわゆる神様転生とそんなに変わんないです。特典とかはない けど。分かりやすいようにわざわざこうしてるんだけどね。そうしたほうがやりやすいでしょ?」 やりやすいでしょ?とかそういう問題じゃないんですけど……。 そもそもこんな訳の分からないモノに参加させてる時点でもう滅茶苦茶じゃないですかー。個人的には死んだ のなら、もうさっさと成仏したい。たぶん天国行けるだろうし、幸せだろう。天国が存在するのかどうかは知ら ないけど。 「まぁそんな訳で、あなたはとっととこのリリカルなのはオンラインの世界に行ってもらいたいと思います。 沢山の転生者という名のプレイヤーが時には協力し、時には敵対し、あるいは殺し合いをし、もしくは全く関 わらないままこの世界で過ごしていき、新暦80年4月までの段階で、どれだけ何が出来るか、世界を変えること が出来るかを競ってもらいます!」 急に微妙に真面目な顔に戻って説明を再び始める自称神様。なんかもう慣れてきた。この人(というか神様) はこういう性格なんだと。まぁ自分は割と聡明な方だと思うので、テンプレのようにここであえて殴りにかかっ たりはしない。というか普通の感性と常識を持ってたらあんなことはしないんだけどね。 「勿論のこと、このゲーム……もとい転生を行うにあたってのルールが存在します。まずひとつめ、アニメ3部 作に出てきた名前を有する、いわゆる原作キャラクターに対する殺人と不必要且つ過度の暴力は一切許されませ ん。故意に行おうとした場合はその時点で即人生終了、まさにデス・ペナルティです。人生を辞めたくなったら やるといいよ。そんなつまらない理由でやったらこっちもそれなりのペナルティを更に加えるけど」 さらりととんでもないことを当然のようにぬかしやがるけれども、まぁこれも普通の感性ならやらないよね。 それともあれかな、やっぱ二度目の人生(彼女ら曰くはゲームだけど)ともなると、自暴自棄になる人が出てき たりするものだったり? とにかく、常識的な生き方をしていれば、特に問題は無い訳か。当たり前だけど。 まったく実感が湧かないから、これから先どのように動くべきかがさっぱり分からないし、今ここで考えても 仕方の無い話だけど。 「なお、この世界はほんの少しだけ特徴的な違いがあります。それは世界そのものの基準です。基本的にはアニ メ3部作が世界の全ての上位に立つ概念です。無印の結果を変えても、A'sは起こるように進んでいき、新暦65年 や71年の出来事がそれなりに変更されても八神はやてによって機動六課は設立され、StSは始まってJS事件は起 きちゃいます。つまり、よっぽど世界を変えない限り、たとえばぶち壊すレベルくらいの変化を加えないと、 少々の時間の差異はあれど、アニメのイベントはほぼ確実に起こります」 つまり、基本的にはどんだけ原作に介入して結果を変えようが、基本的には原作どおりの流れになると。ご都 合主義かよ……。 それともあれかな。これがオンラインゲームだって言いたい理由か。プレイヤーという名のキャラクターが何 をしようが、設定されたイベントは絶対に起こります的な。 「この箱庭の最上位概念は第一期の無印・第二期のA's・そして第三期、StSのアニメ3部作。これらはこの世界 の最も優先されるべき構成概念です。物理的概念よりも優先されると考えてください。そしてその下位に各サウ ンドステージと4作目のvividがあります。forceに関しては無視してるので、エクリプスウイルス関連は存在の 欠片も無いので安心してください。銀十字もないよ。ちなみにサウンドステージとvividに関しては頑張れば存 在そのものを亡くすことも出来るかもしれませんね! 個人的にはイクスヴェリアは見てみたいので、そんな事 をされると残念なのですが」 何があろうが原作が全て。困った時には原作を思い出せ。 そんな感じか。どれだけなのはを愛していたかが勝負を分ける――! なんてね。まぁでも実際覚えていれば 覚えているほど有利な訳か。うーむ、ちゃんと覚えているかまったく不安だな……。 「ちなみに、各作品の重要イベントは絶対に起こるように世界は修正されていきます。いわゆる歴史の修正力っ てやつですね。あれ、原作の修正力だったかな。まぁ名前はどうでもいいや。とにかく実際に私が修正します。 勿論、あなた達を含めて人には感知できないようにしますよ。でももしかしたら感じ取れるかもしれないですけ どね」 そんな運のいい人にはプレゼントがあるかもねー。 にこにこと笑いながら目の前の神様はそんな事を言う。 とにかく、これから向かう世界については大体は理解できた。結局のところ、転生オリ主大量のリリカルなの はの世界に自分も参加するということだ。拒否権もなく。 仕方がないとは全くいえないし、仕様がないとも全く思えないが、つまりは流れに身を任せるしかないのだ。 どうせ参加しないと言ったところでそれは無視されるんだろうし、そうなるとこっちの意思は全く無視された まま始められてしまう。そうなるのが予想できるくらいなら、いっそのこと関われるだけ関わったほうがいい。 どれだけ何が出来るかは、それこそさっぱりわからないけど。 「それでは次にあなた自身のことについて説明しますね」 こちらにぐいっと近寄って来てにこりと笑いかける神様少女。う……なんかこの距離に来られると息が詰まる ような圧迫感が。これが神様のプレッシャーか……違うだろうけど。 「まずあなたは前世のこと、つまり死ぬ前のことについてはほとんど覚えてないと思います。前の人生があって、 何かが起こって死んでしまったということ以外は基本的には思い出せないようにしているので。なので当然のこ とながら、以前の姿かたちも全く思い出せないでしょう。そこで」 そういえばそうだ。死んだことは分かるし、どのくらい生きてたのか、くらいは分かるけどもそれ以外はさっ ぱり分からない。性別すら分からないレベルでさっぱり分からない。 今更ながらにその事実に驚いている中、神様が手のひらをこちらに差し出すように向けてくる。そこにあった ものは 「これを使って、あなたの容姿やその他諸々を決めていきたいと思います。楽しみでしょ?」 そこにあったのはダイス……何の変哲もない、サイコロだった。 そういや少し前に言っていたキャラクリエイトというのはこれの事か。ようやく話がまとまってきた。……て いうかサイコロで決めるってどういうことだ!? そんな運任せな……。 「ただ、一つのサイコロだけで決めるのもアレなので、手順を二つにして面白い方法でやってみましょう」 そういって神様はサイコロを一つずつ、両手に持って説明し始めた。 「まず一つ目は普通のサイコロです。このサイコロを振って、出た目によって次に振るサイコロが変わります。 二つ目に振るサイコロは全部で6種類です。その中からひとつを振ってもらいます」 そういって片方の手を握り締める。再び手を開くと、先ほどまで一つしかなかったサイコロが、その手の中に 6つ存在していた。 「そうです、ひとつめで出した目によって振るサイコロがそれぞれ変わるわけですが、二つ目のサイコロは実は それぞれにひとつずつ細工を仕掛けてあるのです」 なんというイカサマ。これは間違いなく理不尽な結果が起こる。 「いわゆるイカサマサイコロですね。一つ目で1を出したら1が『出やすい』サイコロを。2が出たら2が『出やす い』サイコロで……という形で、一つ目のサイコロで出した目の数が出やすいサイコロを振ってもらいます」 何でそんなめんどいことをするんだ…。いやまぁこの目の前の神様が適当に決めるよりかはいいけど……いや、 こっちの方が嫌か。完全運任せとか怖すぎる。 「やっぱり1回ですべてを決めるというのはフェアじゃないですからね。この全ての要因が排除された空間でど れだけ何かを生み出せるのか、というのが個人的な楽しみなのでこの2個サイコロルールを作りました。1回目で 悪い目が出ても、2回目で挽回出来る可能性を準備しているのがこのサイコロのミソです。これで出目を覆せる くらいの奇跡を起こせるなら、きっと生まれ変わった後もなんとかなるよきっと。そもそもあなたの1回目の人 生だって、完全運任せで生れ落ちたんだから、どうやろうと一緒でしょ」 まぁそりゃそうだけどさ。でもやっぱりなんていうか、さぁ? こんなことでこの先の人生決めちゃっていいの?感はあるよね。 「ちなみに二つ目で出たサイコロの目について説明しますねー。1が出ると、私が独断であなたのキャラクター 全てを決定。あなたが何を言おうと、私のセンスで全てがきまります。2〜5はそれぞれの数値に見合ったものに なります。数が少ないほうが当然よろしくないですね。気をつけましょうね。この場合の作成方法はいくつかの データからの変数による乱数変化での項目決定です。詳細はまた後ほど。6はなんとおめでとう、あなた自身が キャラクリエイトに関わることが出来ます!」 その言葉を聞いて口を挟もうとしたところで、無言で笑顔と共にサイコロを渡される。 質問は、投げてから、とでも言いたいのだろうか。渡されたサイコロを少し調べてみるが、特に何かいじって あるようには見えない。何の変哲も無いサイコロに見える。 とにもかくにも投げないと始まらない。どうせ出た目が何であっても次があるわけだし、2以外が出たら多分 大丈夫だろうし。 そんな軽い、やる気の無い気持ちでサイコロを振ったのが悪いのか。 「おぉっとぉ? まさかの2ですね! これはピンチ! もしかするとよろしくないステータスが集まった残念 な2になってしまうのでしょうか!?」 出た目はまさかの2だった。 2度目があるとはいえ、ただ『出やすい』だけとはいえ(そもそもこれが本当かどうかも分からないけど)、 実際に次に同じ目が再び出てしまったら、自分の手でよろしくない結果を出してしまった事になる。それはさす がに気分が悪い。 でもよく考えてみたら、2のよろしくない具合がどの程度かなんて全く目の前の神様少女は言ってない。もし かすると案外、魔導師の素質がないだけ、とかだったりしたり……。 なんて甘い現実は無くて。 「ちなみに次の出目が2〜5の場合、私が設定したいくつかの変数によってキャラクリエイトは決定するんですが、 さっき振ったときの気分が全然乗ってなかったようですので、あとその他諸々の事情で若干下方修正気味です ねー。変数も悪いほうに絞り気味になっちゃってますね。 このままだと非常によろしくないスタートを切ることになってしまいそうですね。もし2を出しちゃうと他の 人よりも随分早いゴールは迎える事が出来そうな系の。というかもしかするともっとひどい事になるパターンも ありえそうなレベル」 ……前言撤回! これはちょっとヤバイぞ。 2回目の生とはいえ、訳の分からんテンプレのような転生とはいえ、さっさと死んでしまうのは勿体無い。2回 目の人生だからって惰性で適当にやるのは愚の骨頂! 何回目であろうが自分の人生なのだ。自ら地雷原に突っ 込むなんて趣味は全く無い! どうせこのまま勢いに流されるなら、ちょっとでもそれに逆らってもいいだろう。結果がどうなるかが問題じ ゃない。その結果を出すために何をしたかが問題なんだ。精神的な問題として。 ならば、ここで強く意識するんだ。たとえ無意味だとしても、別の目が出るように意識するんだ。やらずに後 悔するよりも、やって後悔! 少女が再びサイコロをこちらに渡してくる。そのついでに地面に投げたサイコロを少女が拾う。それを見届け、 再び視線がこちらへと向く。どうやらサイコロを振れと言っているらしい。 意識を集中させる。 次に出すのは絶対に2じゃない。神頼みじゃなく、これは意志だ。別の目を出すという意志だ。出すのはもっ と別の目だ。自称神様の少女が何を言おうが、ここで人生終了確定のまま始まるなんてことは絶対にさせない。 自分の人生を自分で終わらせるだなんて真似、絶対にさせてたまるかよ! サイコロを……振るっ! 「……おぉっ」 「……」 短く驚きの声を上げた神様。自分は何も言えず、無言。 気合の入れた一発によって出した目は――。 「では、出た目に従ってあなたのキャラクターを作成いたしますね。どうか素晴らしいキャラクターになること を祈っていてください。 ……さて、それではそろそろお時間ですね。口惜しいですが、お別れです。最後に何か質問はありますか?」 キャラクリの為のサイコロ振りが終わり、そのあと少しだけ神様を談笑していた。そんなこんなで何だかんだ で、この訳の分からない空間と目の前の神様に慣れてきた頃。 ようやくと言えるべきなのか、この空間と神様からおさらばする時がやってきたようだ。 結局何一つまともに理解する事は出来なかったけど、これで一段落つくのなら、それでいい。と思う。 「ないですよ。というか、ありすぎて時間が足りなくなりそうだし」 この世界がまず本当なのかという疑問は未だに消えない。 自分が死んだのは確定してるし、それ自体は覚えている。ならば、これは死によって見せる、胡蝶の夢のよう なものなのかもしれない。いずれまた生まれ変わる時までの、もしくは天国か地獄へ放り込まれるまでの、白昼 夢のような現実に見せかけた、ゆめ。 「それは残念です。でしたら、次に会うときはもっと沢山お話をしましょう」 次があるのかよと思わず突っ込みたくなったが、まぁどうせそのうちまた出会うのだろう。こういう別れの時 はすぐに再会してしまうものだ。嬉しくはないが。 夢だと思いたくても、どうせこれは現実になってしまうのだ。新しい人生を始める事で。 「それでは、よい旅を。そしてよい人生を。あなたが素晴らしいプレイヤーとして、リリカルなのはオンライン の世界で活躍する事を心から楽しみにしてますね」 「お世辞は結構です。とりあえず、これで一旦さようなら」 「はい、それではまた」 そういやどうやってここから移動というか、変化していくんだろうなぁと思っていると、身体が突然光に包ま れていった。 身体のいたるところの感覚がだんだんと無くなっていく。神様に会う前の状態へと戻っていくような錯覚。視 覚が、そして触覚がどんどん失われていく。外部からの感覚が何も感じられなくなったと思ったところで、不意 に頭の中に声が響いてきた。 「いってらっしゃい」 たった今まで目の前にいた少女の声とともに、意識はゆっくりと遠のいていく。次に目覚めた時は、新しい人 生が始まっているのだろうか。 せいぜい、まともな人生を歩めますようにと誰に願う訳でもなく、そう心の中で願いながら、意識は完全に彼 方へと消え去った 「いやぁーさっきの子、もしかすると中々期待出来るかもしれないねー。なんたって、ほとんど出るはずの無い 1の目出しちゃうんだし」 ひとつの魂を自身の創った世界に送り届けた後のとある空間。 神様を自称している少女と青年は何をするでもなく、二人で談笑していた。 「あれ、出目を操作してたんじゃないの? 焦りようが酷すぎるからつい憐れんで。俺はてっきりそうだと思っ てたんだけど」 青年は少女の言葉に少し驚いた様子を見せながら、ふうと息を吐く。 「そんな訳ないよ。少なくともこっちから何かを操作することはしなかったよ。サイコロに関しては全部フェア にやったし。サイコロ自体の出目の確率が全然フェアなものじゃないから、ルール上では」 そもそもこの転生自体がフェアじゃないだろと心の中で突っ込む青年。 少女の息抜きの遊びとしかいえないこの戯れに、ほぼ無理矢理付き合わされている青年は、言いたい事は沢山 あれど、それでもため息ひとつで少女についていく。というかついていかざるを得ない。自分がいなければスト ッパーを失ったこの少女は何をしでかすか、分かったものじゃない。そんな恐怖から青年は少女から離れるに離 れられない、そんな構図が出来てしまってしばらくの時間が経つ。 「あー楽しみ。これからどんな展開になるんだろうねぇ」 「どんな展開て……。何が起きても流れを保つなら、楽しみもクソもないだろう」 「その限られた中でどれだけ引っ掻き回してくれるかが楽しみってことー。まー原作開始にたどり着くまでに一 体何人残ってるかがまず最初の問題だけどねー」 「さりげなくひどいことをおっしゃる」 ここに連れてきた魂はみな、この少女が愛情を持って呼び込んだものばかりである。しかしだからといって、 むしろだからこそ生れ落ちた命に特別な措置を行うことはない。 死んだらそこでおしまい。少女らが主催している"ゲーム"だからといって、蘇生の魔法はないのである。甘え と甘やかしは過ぎると愛情ではない。 ちなみにそれから少女は、新暦65年の原作開始までに3割が脱落すると予想を立てていた。加えて転生を開始 する前の段階での脱落者は約1割。その理由は言わずもがな。 「しっかし、転生を望んでる人間なんざ、ロクなのが居ないな。いきなり掴みかかってくる奴らは何を考えてる んだ」 「そんな思考の足りない人間を、私に触れる前にさらっとくーるに消し去るあたりまじかっけーって感じだよ ね!」 マジぱねぇっす!と煽っているようにも聞こえる褒め言葉を青年に浴びせ続ける少女。青年は特に気にするこ となくスルーし、立ち上がって全身を伸ばす。 「ま、お前の我がままにも、たまには乗ってやるのも悪くないと思ってな」 「さっすが! あいらーびゅー!」 茶化してるのか本気で言っているのか、どっちで言ってても嬉しくない言葉を背に浴びながら、青年は今まで 座っていた椅子を持ち上げ、まるで手品のようにそれを消し去る。 「あとねー」 青年に続くように立ち上がり、青年の真似をして全身を伸ばしながら少女は呟く。 ついでに出た欠伸をかみ殺しながら、青年の方へと身体を向ける。そしてぐいと顔を近づけ、少女は口を開く。 「知ってると思うけど、私はゲームを見て楽しめる方の人間じゃないんだよねー」 少女の顔に浮かぶ表情を見て、青年は嫌な予感が身体に走るのを感じた。 「やっぱり、ゲームってのは自分がやってこそ、参加してこそ楽しみがあるんだと思うよね」 少女の右手にあるのは先ほどまで使っていたいくつもあるうちの二つのサイコロ。その手の近くには、ゲーム のステータスを映した画面のようなものが空中に佇んでいた。 「そう思わない?」